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『くちづけ』


それは本当に突然の出来事で…抵抗する事もできなかったのだけれど。
初めて触れた唇は、不思議と心地よかった。

「ネジ兄さん…?」

あまりにも意外な、予想もしていなかったネジの行動に、抵抗する間もなかった。
ネジの腕の中に絡め取られたヒナタは、なすがまま驚いたようにネジの名を呼ぶ。
ほんの一瞬の掠めるような接吻だったけれど、ヒナタの唇を奪ったはずのネジの唇は、微かに震えていた。

「どうして?」
「申し訳…ありません」

ネジの腕は力強く、どんな外敵が来ても、きっと守って貰えると信じられて安心できた。
ほんの少し勇気をだしてネジの胸に頬を寄せてみると、大きく脈打つ心臓の音が響いている。

「どうして…キス…したの? ネジ兄さん…」

うっとりと眼を閉じたヒナタは、ネジに問いかけてみる。
答えを聞いてしまえば、きっともう…この人からは逃れられない。
そうと分かっていながら、何故かを期待している自分に戸惑う。

「答えて……貴方にとっての私は、どんな存在なのですか?」
「ヒナタ様……ヒナタ」

言葉ではなく、行動で、その全身全霊の想いでもって、思い知らされる。
愛されているのだと、そして自分もまた恋しているのだと。
ネジを兄と慕っていた幼少の頃。
何よりも大切に守られてきた。
そして、他の誰でもなく、彼の視線を独占し続けてきたのは自分。
今度は、その身全てを彼に奪われるのだろう。
心さえも。
それは、二人だけが感じられる甘美な呪縛。

乱暴に肩を引き寄せられ、あわせられた唇の上で、ネジの柔らかな舌先が、チロチロと誘うようにくすぐった。
受け入れて欲しいと懇願するように、優しい手のひらで顔を仰向かされる。

躊躇いがちに開いた口腔に、ネジが侵入してくる。
息継ぎもできずに、ネジに翻弄され、からめ取られた舌が、自分のモノではない感触に支配されていた。
延々と貪るように口付けられたまま、どれほどの時間そうしていたのだろうか。
実際には、ほんの数分だったかもしれないけれど、上手く呼吸が出来ない苦しさと、思ってもみなかった感覚に思考が麻痺してしまった。

「貴女を、俺だけのモノにしたい」

ただ…その熱く濡れた愛しい人の声に、震えるほどの喜びで身体中の全ての五感を支配されていた。





(2006.12.13 水乃えんり)




誓いの刻印は、痺れるほど甘美な誘惑…





すいぞくかん 水乃えんり 筆
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