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膝枕-裏話 程よい肉付きの柔らかなその太腿は、酒に酔い熱く火照ったネジの頬を、優しく受け止めていた。 「ヒナ…タ…さま…」 ネジは、凍りついたかのようにロレツが回らぬ舌先を何とか動かし、間の抜けた声でヒナタの名を呟いた。 「はい? 何でしょうか。ネジ兄さん?」 泥酔したネジの頭を優しく膝枕したまま、上から覗き込むようにして、ヒナタはにこやかに返事を返す。 『なんと無防備な…』 反射的にヒナタと視線を絡ませたネジは、己の顔と…情けない事に下腹部が、カッと熱くなるのを感じた。 至近距離での会話にも関わらず、ヒナタは臆するでもなく、安心しきった視線で真っ直ぐネジの瞳を見返している。 信頼する従兄だからこそ、ここまで身体が密着している状況を許しているのだろうか? それとも…もう少し進んだ、その先を期待してもいいのだろうか? 目の前で微笑む薄紫の無垢な瞳は、あまりにも魅力的すぎた。 無様にも酒に酔い、今にも飽和しそうなネジの理性では自制しようもない。 だが…すげなく拒絶されたら? 苦い思いが脳裏をよぎる。 だが、このままヒナタの細い頤を指で引き寄せれば、すんなりとその唇を捕らえられそうだった。 軽く開かれた口から真珠のように白い歯がチラリと覗き、ぷっくりと柔らかそうな下唇が、まるでネジの気を誘うように震えている。 この甘い誘惑に、理性を総動員してでも抵抗するべきなのだが…。 分解されたはずのアルコールが、しぶとくもまた活性化し体内の血中を巡り出したのだろうか。 身体は床へ横になっているはずなのに、世界は揺れクラクラと眩暈をおこしていた。 ネジは、ゴクリと咽喉を鳴らしもう一度掠れた声でヒナタの名を呼んだ。 「ヒナタ様…。申し訳ありませんが、水を一杯頂けますか?」 ネジの掠れた声は、妙に色っぽい響きを含んでヒナタの耳朶を震わせ、ヒナタは反射的にほんのりと目元を朱に染めた。 「う…うん…。じゃ…ネジ兄さん、起きて貰っていいかな? お水飲むのも、このままだと動けないし…」 咽喉の渇きを訴える従兄の言葉に、ヒナタはコクリと頷いた。 ――ところが、 「動けません」 「え?」 「身体に力が入りません。酔って動けないようです」 キッパリと言い切るネジに、ヒナタは戸惑った瞳でオロオロと視線を隣の部屋へと泳がした。 「ど…どうしよう。そんなにツライなら誰か呼んでこようか?」 慌てて姿勢を正したヒナタは、自分の膝の上に置いたネジの額へ手を添える。 「だっ、大丈夫? ネジ兄さん?」 ネジの乱れた前髪を整えようと、ヒナタの指先が柔らかく動いた。 「……」 沈黙するネジの様子を誤解したヒナタは、心配そうに眉根を寄せて労わるようにネジの頬へ指を滑らせた。 心地よさ気に目を細めるネジに気づかないのか、そのまま首筋を…ついで肩口をソロリと撫でられる。 『もう暫く、このままでいるのも悪くはない。だが、人を呼ばれては、都合が悪いな。…さてどうするか…』 「やっぱり、誰か呼んできます!」 ネジが心地よい時間を継続する方法を思案する間もなく、ヒナタが思い切って強く主張した。 「ダメです」 「え? ど…どうして?」 ヒナタは、ネジの邪まな思惑を知るよしもなく、憮然とする従兄の顔を不思議そうに眺めた。 「…水を一口頂ければ、動けると思うのですが…。宜しければ、ヒナタ様が飲ませて下さいませんか?」 至って平常時と変わらぬ口調で答えるネジに、ヒナタは小首を傾げつつも、素直に心配しているようだった。 「で…でも、この姿勢だとお水こぼれちゃうよ?」 たとえ手助けがあったとしても、身体が横になった姿勢では、湯飲みに口をつける前に水がこぼれてしまう。 それくらいの事は、ネジとて分かっているだろうに、どうやって飲ませろというのか。 無茶な注文をつけるネジの言葉に、ヒナタは、困惑した顔で首を捻ってしまった。 「そうですね……では、こうしましょうか?」 ネジは緩慢な動作で腕を伸ばすと、ヒナタの唇の輪郭をツイッと指で掠めるようになぞった。 『この唇で…飲ませて下さいますか?』 声なく呟いたネジは、意味深な笑みをクスリと漏らす。 読唇術を心得た忍びであるヒナタが、その言葉の意味を理解するまでの数秒。 指先で触れた唇は、想像していた通り柔らかな感触をしていて、ネジの身に早くも高揚感を与えた。 「え? 私の……ええ!? くっ口移しで?」 素っ頓狂な声をあげたヒナタは、呼吸困難をおこしたかのようにパクパクと唇を数度動かしたあと、言葉にならず絶句する。 顔を赤らめたり青ざめたり…クルクルと変わるその表情が、なんとも初心なヒナタらしく素直で…ただただ愛しかった。 「う…口移しじゃないとダ、ダメなんですか?」 「嫌ですか?」 心なしか寂しげな…傷ついた声で問うネジに、ヒナタは、ぽそぽそと小さな反論する。 「い、イヤじゃない…です。で…でも、口移し…じゃなくて、他に方法はないの? ネジ兄さん?」 無理な注文をつけるネジに、ヒナタはその気迫のみで押されていた。 ネジからならまだしも…ヒナタからなんて…。 救いを求めるように見つめるヒナタの眼が、羞恥の色に潤んでいる。 「ぜひヒナタ様の口移しでお願いします」 こんなにも可愛くてしかたがない女性を困らせたくはなかったが、そこはあえて強気で懇願する。 「そういえば…今日は、私の成人祝いでしたね」 ネジは、ふと今更の事を改めてヒナタへ確認する。 「エ? は、はい。そうですが…」 「ヒナタ様からは、まだ何も頂いておりませんでしたね」 「そ…それは…」 今日は、お祝いの食事の用意もちゃんとしたし…。 そう答えるつもりのヒナタの口を遮り、 「では、今この場で頂きたい」 ネジは、ニヤリと不敵に眼を光らせ宣言した。 動けないとのたまった舌の根も乾かぬうちに、ムクリと上体を起こすと、大胆にもヒナタの顎を捉えて小さな唇を奪う。 「? …え? ええっ!?」 何事が起きたのか理解できぬまま、ヒナタはパチクリと眼を見開いて、眼前にある従兄の長い睫毛を凝視した。 優しく押し当てられた唇は、熱く濡れた吐息を呑み込む。 柔らかな感触は想像以上に温かく、眩暈がするほど甘く、そして痺れるような刺激をネジに与えた。 いっそこのまま床へ押し倒してしまおうか? 頭の隅でチラリと、そんな不埒な考えが過ぎったが、初心なヒナタを怯えさせないよう細心の注意を払う。 小鳥が啄ばむような軽い口付けから、次第に深く情熱的なソレへとネジは、貪るようにヒナタの唇を味わった。 極上の酒は一度味わうと、酔っ払うのに懲りもせずもう一口欲しくなる。 まして恋しい女性の唇が、咽喉の渇きを癒してくれるとなると…。 ―――それはもうただの接吻。 水が飲みたい云々は、ただヒナタの唇が欲しかった為の口実だったようで――― そこまで来て、その手の話題に鈍いヒナタもようやくネジの意図に気づいた。 「あ…! ネジ兄さん!」 ヒナタは、微かなアルコールの香りがするネジの唇が離れた瞬間、非難の声をあげて鋭く叫んだ。 ネジは、素知らぬフリをして「どうかしましたか?」などととぼけている。 「ネジ兄さん! 酔って動けないんじゃなかったのですか!?」 怒ったヒナタは、顔もさることながら白い首筋までも血の通った鮮やかなピンク色に染めあげている。 最高に居心地の良いヒナタの内腿に顔を埋め、心なし肩を揺らしながら嬉しげにクックと人の悪い笑い声をあげていては、嘘とばれてもしかたがない。 紅潮した頬へ、指の腹を這わせながら、ネジは誘うような声色でヒナタの許しを請う。 「申し訳ありません…。からかうつもりではないのですが…水を一杯。本当にお願いできませんか?」 甘く囁く低音が、ヒナタの耳朶に優しく吹きかけられ、ゾクゾクッと背筋に震えが走る。 思わずハイと素直に答えそうになったヒナタは、流されている自分に気が付きキュッと唇を尖らせた。 「知りません! ―――お酒臭い人はキライです!」 拗ねてしまったヒナタは、すげなくネジの要望を却下する。 けれど、大人の味のする接吻に早くなる鼓動を隠しきれず、ヒナタは、律儀に膝枕をしたままプイッとネジの視線から顔を背けたのだった。 (2006.12.27) |
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すいぞくかん 水乃えんり 筆 無断転載・複製・直リンク禁止 |