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日記より抜粋のコネタ




節分コネタ




今年の節分の恵方は、西南西…その方角に向かって無言で家族揃って巻き寿司を丸かぶりすると、その年は幸福が回ってくる。
そんな昔からの言い伝えを、毎年行われる行事のひとつとして日向家でも律儀に守っていた。

「…お父さま、今年の恵方は、西南西だそうです。太巻き寿司は、この一本で足りますか?」

ヒナタは、白い割烹着姿で居間に現れると、ヒアシの前に、手早く夕食の膳を用意した。
大きな皿の上に、デデンと置かれた超特太の太巻き寿司。
明らかに、創意工夫を凝らされたと思われる具の巻き方から、ヒナタの努力と料理の腕前が窺える。

「うむ…皆の配膳が出来たら、お前も一緒にそこへ座りなさい」

夕刊を広げて読んでいたヒアシは、律儀に新聞を折りたたみ、卓袱台の上に並べられた夕食の献立を確認してからヒナタに頷いた。

「はい。じゃあ、ネジ兄さんと…それとハナビの分…と…」

ヒナタは、ヒアシの横顔に向かってニコリと微笑み返し、手早く家族分の配膳をすませて、自分の席に座った。

「……では、今年一年も健康にすごせるよう。アチラの方角を向きながら、この太巻き寿司一本を、無言で丸々完食するように…」

厳かに話すヒアシの言葉に、一緒に卓袱台を囲んでいるヒナタ、ネジ、ハナビは、ほぼ同時に頷き、そして、自分に割り当てられた太巻き寿司を手に取った。

「………」

「…」

「…モグモグ…」

「……………………」

一種、異様な雰囲気を漂わせながら、黙々と太巻きを口に運ぶ大人ひとりと、子供が三人。
最初に太巻きを完食したのは、意外にもヒアシであった。

「ヒナタ…私には、茶を…」

「……モグモグ。あっ、ハイ」

大きすぎる太巻きを、一生懸命口にほうばっていたヒナタは、反射的にヒアシへ返事をしてしまった。

「あっ! しゃべっちゃった…」

少なからずショックを隠せないヒナタに、ヒアシは苦笑まじりに「いいから茶を頼む…」と、重ねて声をかけた。

「……ねえ、ハナビ? ご飯の量が多かったら残してもいいんだよ?」

ヒアシの湯飲みにお茶を注ぎながら、ヒナタは、気遣うようにハナビへ声をかけた。
ちょっとした油断から『無言の行』から解放され、節分の慣わしを実行できなかったヒナタは、残りの太巻きをのんびり完食する事にしたようだった。

「……モグ…んんん〜ン。んんん!(大丈夫。食べる!)」

ヒナタの心配をよそに、ハナビは真剣な面持ちで、太巻きと格闘していた。
口いっぱいに頬張っているので、言葉は言葉としてヒナタに聞こえないのだが、気持ちは十分に伝わっていた。

「はいはい。無理しないでね。去年と同じように、小さく作ってあげたのに…急に今年から、皆と同じ大きさがイイなんて言うんだから…」

「………ふぅ…ヒナタ様、私にもお茶をお願いします」

そうこうしている内に、無言で食べ続けていたネジも、太巻きを完食していた。

「あ、はい。ネジ兄さんも、もう食べ終わったの? 早いね」

「!!!!? フんんん!!(何だと!!)」

ヒナタの言葉に、太巻きを手に掴んだままハナビがいきり立つ。

「……ハナビ、お行儀が悪いよ」

ヒナタがそっと嗜めるように声をかけたが、ハナビは、聞こえない様子でネジを睨んでいた。

「………うううう(悔しい)」

どうやら、大人の仲間入りがしたかったらしく(むしろ、ネジと対等に早食い勝負をしたかったらしく)眼に涙さえ浮かべて悔しがっている。
文句を言いたくとも、太巻きを無言で食べなければならない節分の習わし…けれど、まだやっと折り返し地点に届くか? という程度しか食べていなかった。
ワナワナと打ち震えるハナビを横目に、ネジは、食後のお茶をちゃっかりと頂いていた。

「……やっぱり、ハナビには、まだこの量は無理だったよね。完食したら、私でもお腹が一杯になっちゃうんもん」

ヒナタは、のんびりとした声でそう言いながら、残すところあと一口となっていた太巻きに手を伸ばしたのだった。





* * * * * 





この夕食のあと、仔ネジヒナでも書いた節分の豆撒き合戦に突入していく事になるのですが、今回はコネタっつー事で、キリよく(?)終わりにしてみました〜。
ハナビたんの雪辱戦は、はたして成功するのか否か……鬼役は「これも分家の役目か…」と、ネジきゅんに言わせながら、「宗家の力見せて貰おう」と、妙にデカイ態度でハナビの相手をしてくれたらよいですな。




2005年02月03日(木)




すいぞくかん 水乃えんり 筆
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