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日記より抜粋のコネタ




真白い障子越しに朝日の光りが透ける。
早くもチュンチュンと雀が囀り始め、ヒアシの目覚めを促した。

「…ム?」

いつもどおりの時刻に目覚めたヒアシは、ふとした違和感を己の身に感じた。
訝しげに上体を起こし、寝乱れた夜着の襟元も直さぬまま、長い指を伸ばして軽く目頭を押さえる。
数秒目蓋を閉じたヒアシは、意を決してゆっくりと目を開いた。




『眼』




「……うむ。どうした事か…右目が霞んで見えぬ」

ヒアシは、眉根を寄せ、珍しく困惑した表情を浮かべた。
左目の視力は何ともない。
けれど、右目だけ原因不明で視界が悪いのである。

「医者を呼ぶべき…か。否…か」

ヒアシの身に起きた由々しき事態であった。
まさか、日向宗家の当主たるヒアシが眼の治療で医者にかかるなど……。
これが世間に知れれば、どんな醜聞が待ち受けているか。
苦渋の滲む表情で、ヒアシは一考を案じた。




 * * *




「ヒアシ様。御呼びにより、ヒザシ…参りました」

早朝から、ヒアシの寝所に呼びつけられたヒザシは、居住まいを正して障子越しに声をかけた。

「うむ…入れ」

少ししゃがれたようなヒアシの声に促され、ヒザシは訝しげに思いながら寝室へ身体を滑り込ませた。

「失礼致します。何用でございますか?」

中に入ると、ヒアシはいまだ夜着のまま…。
ヒザシは、驚いた様子で眉を跳ね上げた。

「……どうかされたのですか? 時間に律儀な貴方が、この時刻になって着替えをなさらぬとは……。眼を…右目をどうされたのです!?」

ヒザシの問う声に、ヒアシは、鬱陶しそうに手を振って黙らせた。

「騒ぐなヒザシ! 完全に見えぬわけではない」

視界のきかぬ右目を瞑ったまま、ヒアシは、チロリと片目だけでヒザシを見返す。

「…これがどういう意味だかわかるか?」

重々しく話すヒアシの横顔を、ヒザシは、身動きもせずに凝視した。

「白眼の秘密は守らなければならない…だが、このままにしておくわけにもいくまい。…だからお前を呼んだのだ。ヒザシよ…」

話し終えたヒアシは、一呼吸置くと熱っぽい右の目蓋を押さえる。

「…ハイ。しかし、いつからなのですか? 具体的にどのような症状を?」

「気づいたのは、今朝からだ。右の目が熱を持って腫れっぽく、涙と目やにが出て止まらぬ」

ヒザシの質問に、ヒアシは素直に答えた。
真剣に眼の状態を聞いていたヒザシは、はたとひとつの症例を思い出して表情を強張らせた。

「ヒアシ様…少々失礼します」

言うが早いか、ヒザシは素早くヒアシの顎を捉えると、右目を覗き込んだ。



 * * *



「……ヒアシ様。結膜炎ですねコレは」

ヒザシが、呆れたように大きな溜息を漏らした。

「まったくヒアシ様も大袈裟な…この程度の症状ならば、眼を清潔に保てばすぐ治ります。医者でなくとも私が、点眼薬を調合してさしあげますよ」

ヒザシの答えに、ヒアシは、布団の上で茫然自失といった様子で沈黙した。

「治るのか? …すぐに?」

「治りますよ。子供の頃にも、何度か経験しているじゃないですか。まったく…宗家の当主たる方が……ヒアシ様、雑菌のついたままの手で目を擦ったりしたのでしょう……」

懇々と説教モードに入ったヒザシに、ヒアシは極まり悪げに苦笑いしたのであった。




 〜なんとなく、微エロ系雰囲気のオマケメモ〜




見下ろせばヒアシ様の隣に、乱れた夜着のまま…手首を拘束された姿で身動きもできず、しどけなく横たわるヒザシ……

「ヒザシ? 何故お前がここにー」

戸惑うヒアシの声を耳にした途端、

「何故? ですと? 貴方がそれをおっしゃるんですか?」

一睡もしていなかったのか、ヒザシの紅く染まった目元が、皮肉気に歪められる。
驚くヒアシの眼を、気丈にも睨み返した。




2006年04月07日(金)




すいぞくかん 水乃えんり 筆
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