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『手首』




綺麗な川のせせらぎに細い指先を浸し、ヒナタは、小さく口元を綻ばせた。

「ハナビ。冷たくて気持ちがいいよ?」

指の先を冷たい水に濡らしたまま振り返れば、呆れたような表情で弟が顔を曇らせていた。

「姉さん…。そんなところで遊んでいたら、水に濡れた苔に足を取られるよ?」

ハナビは、額から流れる汗を拭いながら、無邪気に水と戯れる姉を見つめて溜息を吐いた。

「もう! こんなに小さな川に落ちるほど、そんなにドジじゃないよ」

ヒナタは、意地悪な事を言う弟へ抗議すると、プクリと頬を膨らませる。

「そう? でも、ほら…言ってるそばから、危ないよそこ…」

ハナビに指摘されると同時に、ムキになって立ち上がろうとしたヒナタは、水に濡れた岩の上で足を滑らせた。

「エ? っきゃ!」

足を踏ん張ろうにも靴の裏がツルリと滑り、ヒナタは、危うくお尻から川の中へ落ちそうになる。
けれど、予想していたハナビが、素早く駆け寄りヒナタの腕を捕らえる。

「ね? 危ないでしょ。姉さん?」

ハナビは、ニコリとヒナタの顔を覗き込む。

「う…うん。ありがとう、ハナビ…」

ヒナタは、恥ずかしそうに俯いた。
ハナビは、姉の細い手首を自分の手の中へ包み込んだまま、悪戯っぽい口調で呟いた。

「姉さん…水浴びするなら、ちゃんと服を脱いでからにしてね」



秋の彼岸も過ぎたというのに、まだまだ太陽の陽射しは強く、外気温は真夏日の如く厳しい暑い日のひととき…。




すいぞくかん 水乃えんり 筆
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