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『肩』




気持ちの良い風が吹く秋の日。
弟の部屋で、夏物の衣装を片付けていたヒナタは、ふと手を止めて、小さく溜息を洩らす。

「この服も、もうハナビには小さいかな? 去年よりも随分と背が伸びたし…袖が短くなっちゃってるよね…」

う〜ん。と、困ったように小首を傾げて、ヒナタは、綺麗にたたんだ上着をもう一度広げてみた。

「今年の冬は、新しい着物も新調しなきゃだ…。ハナビってば、どんどん背が伸びちゃうんだもん…」

ヒナタは、少し不満そうに唇をツンと尖らせて、成長期の弟へ文句を零す。
幼い頃から溺愛してきた可愛い弟が、男らしく育っていく様子を間近にするのは、とても嬉しい事のはず…なのに、いつまでも小さな子供のままではいてくれない事に、どこか寂しさを感じてしまう。

これは、姉のワガママ…なのだろう。

ヒナタは、自分の我侭な想いに、フウッと悩ましい溜息を吐いた。

「姉さん? どうかしたの?」

ふいに、無防備なヒナタの背へ、涼やかな少年の声がかけられる。

「ハナビ?」

弟の声に振り返ろうとすると、ハナビは、スルリとヒナタの背後へ回りこむ。
悪戯っぽく微笑んだハナビは、ヒナタの華奢な肩に腕を回して、ヒョコリとヒナタの顔を覗き込む。

「姉さん、何してるの? そんな難しい顔して?」

ハナビは、屈託の無い笑顔で、ヒナタのご機嫌を窺う。

「う、うん…。衣替えの時期だから、冬物の準備していたんだけどね。ハナビの服が、小さくなったから買い換えないとっ…て」

頬が触れるほど間近にあるハナビの顔と、肩に回された腕の感触に、ヒナタは、戸惑ったように顔を伏せる。

「ハナビ…身長どれくらい伸びたの? なんか、前より…」

困惑した声を上げるヒナタに、ハナビは、可愛く小首を傾げた。

「え? そんなに伸びてないと思うよ? 最近計ってないから…どうだろ…」

ついこの間までは、こんな風に無邪気に肩へ抱きついてきても、しがみ付く…といった感じでいたのに…今日のヒナタは、スッポリとハナビの腕の中へ抱き込まれていた。

いつの間にこんなに大きくなったのだろう…。

「今度、ちゃんとハナビのサイズ測ってから服を買いに行こうね?」

ヒナタは、複雑な心境になりながら、大きな身体で姉の背に懐く弟の腕をポンポンと叩いた。




すいぞくかん 水乃えんり 筆
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