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〜女王様と犬2 オマケコネタ〜
2007.05.04




『午睡のアト』




ピンポーン。

静寂の空気が漂う早朝に、高らかに玄関の呼び鈴が鳴る。
眩い太陽の光りが昇り、陽射しが強まる午前六時。
家の主人はまだ眠りの床についているのか、玄関の扉が開く気配も無い。

ピンポン、ピンポン、ピンポーン!

早朝の訪問者は、就寝中の家人を叩き起こさんばかりに、遠慮なく呼び鈴を連打した。
暫くして、ガタガタと緊張感のない間伸びた音をたてて玄関の扉が開かれた。

「おはようっ。キバ! やっと起きた?」

朝日煌く清々しい外気の中、ニコリと満面の笑みを浮かべて、小柄な少女がひとり玄関に佇んでいた。

「ハナビ……んだよ。朝っぱらから…」

起きぬけの顔をムスリと顰め、キバは、ボソボソと掠れた声で呟いた。

「昨夜、任務から帰ってきたって聞いたから、お土産持って遊びに来たよ♪」

ハナビは、手に持った菓子箱を掲げ、ニコニコと嬉しそうにキバの前に見せる。

「……あーご馳走様。とりあえず、帰れ」

キバは、カタチだけの礼を述べると、ハナビをすげなく追い返そうとする。

「えーなんで?」

ハナビは、途端にキバを見上げる笑顔を一変して、不満そうに眉を顰める。

「……俺は眠い。ついでに、任務で帰宅したのはついさっきだ。ものすんごーく疲れてる。だから、帰れ」

よくよく見れば、確かにキバの顔色は青ざめて、眼の下にうっすら寝不足のクマがある。

「……折角来たのに? 久しぶりに逢えたのに、キバはハナビにそう言うんだ?」

ブウッと丸みのある頬を膨らませ、ハナビは、つまらなそうに文句を零す。

「だったら、午後に来いよ。マジで眠いんだって…。今は、ハナビの相手してやれねーぞ」

キバは、大きく欠伸を漏らすと、今にも落ちてきそうな目蓋を、乱暴に手で擦る。

「ムウ…ケーキ…」

ションボリと項垂れたハナビは、手土産の中身を思い、名残惜しそうに呟いた。

「…上がってもいいけど、俺は寝るぞ」

玄関の戸に背を預けて立っていたキバは、ボリボリと頭を掻いてから、諦めたように顎をしゃくる。

「いいの!?」

ハナビは、元気よく顔を上げると、キバを見つめて嬉しそうに笑う。
キバの後について、いそいそと部屋に上がりこむと、キバは、倒れこむように寝乱れた布団の中へバッタリと落ちた。

「頼むから、静かにしてろよ…。昼に起こしてくれ…」

一方的に頼むと、キバは、早くも寝息を立て始める。

「……ええ? もう寝たの?」

驚いた声を出して、ハナビは、興味津々の眼でキバの寝顔を覗き込む。

「向こう行ってろ…」

まだ眠りが浅かったのか、キバの低くくぐもった声が不機嫌そうに返る。

「あっ…ゴメンナサイ」

慌ててキバから離れたハナビは、ふと小首を傾げた。

「…キバ。膝枕してあげようか? それなら傍にいてもいいでしょ?」

ハナビは、布団の横にちょこんと脚を伸ばして座り、キバの頭を指で突っついた。

「どっちでもいい…寝かせてくれ…頼む…」

目蓋を開く気力もないキバは、情けない声で呻いた。
極度の肉体疲労と睡眠不足の状態では、ハナビと会話をするのも、もはや苦痛でしかない。

「はーいv それじゃ、おやすみ。キバ!」

ハナビは、ニコニコと楽しそうにキバの頭を膝に乗せて、ご機嫌な声で微笑んだ。
少女のすべらかな柔肌が、キバの頭を優しく包み込む。

「ハナビが膝枕していてあげるから、安心して眠っていいよ」

 睡魔に襲われて、既に半分意識が飛んだキバの耳に、ハナビの声が子守唄のように聞こえる。

「ああ…」

 ゆったりとハナビに身体を預けたキバは、夢現の声で答える。
フワリと柔らかな太腿の感触を味わう余裕も無く、キバは、瞬く間に深い眠りの底へ落ちていった。




         そして『優しいヒト』へ続く




すいぞくかん 水乃えんり 筆
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