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〜女王様と犬3 チラシオマケコネタ〜 2007.08.18 『水遊び』 ミーンミンミン…ジー。 いつ止むともしれぬ蝉の鳴き声が、耳の鼓膜を震わせ木霊する。 残暑厳しい季節の昼下がり。 照りつける太陽の陽射しは、乾いた大地に燦々と降り注ぎ、息苦しいほどの熱量を反射していた。 「姉上! 早く、早く!」 弾むような少女の明るい声が、白い砂浜の上を走る。 見上げる空は、遠くどこまでも青く澄んだ色で、白い入道雲が水平線に浮かんでいた。 モクモクと立ち昇る白い入道雲が、刻一刻と風の流れに形を変えて、青い空を緩やかに彩っていく。 白と青と藍の世界に染まる世界の中心で、大きく深呼吸をすると、肩まで伸ばした黒髪が、強い海風に吹かれて勢いよく広がった。 ハナビは、胸いっぱいに潮の香りを吸い込んで、大きな歓声をあげた。 「ウーミーだー!」 波打ち際まで一気に駆け寄り、打ち寄せる波に躊躇いもなく、剥き出しの白い素足を突っ込む。 「ほらっ! 姉上も、早くおいでよ!」 ハナビは、無邪気に笑いながら、パシャパシャと水飛沫をあげて波を追いかける。 「ハナビ、まだ荷物を全部降ろしてないでしょう?」 藍色の髪を、緩く三つ編みにまとめたヒナタが、柔和な顔を曇らせつつ、海を前にしてハシャグ妹を嗜めた。 「ほら…、キバ君も、ネジ兄さんも、ハナビの分まで荷物を運んでるよ?」 ヒナタは、額から吹き出す汗を拭い、後ろを振り返って困ったように小首を傾げた。 「ええー!? 準備が遅いぞ男ドモ!」 細い腰に手を当てて振り返ったハナビは、大いに不満そうな声で、付き添いの男性陣を叱咤する。 「文句云うんだったら、ちっとぐらい手伝えよな」 大量の荷物を肩に担いできたキバは、額からタラタラと汗を流して、ボソリと愚痴を零す。 「……ヒナタ様。私たちは構いませんから、ハナビ様と先に行って下さい」 キバの背後から着いて来ていたネジは、涼しげな顔で大きな荷物を軽々と肩へ掛けなおした。 「でも、ネジ兄さん。私の荷物まで背負ってくれてるし…それじゃ、申し訳ないわ」 ネジの言葉に甘えて、身軽な格好で歩いてきたヒナタは、本当に申し訳なさそうにネジを見返した。 「このくらいの荷物の量でしたら、たいした重さじゃありませんよ。これも修行と思えば、楽しいものです」 ネジは、ヒナタの気遣いに、優しく首を振って微笑んだ。 「……ネジ兄さん…」 新調したばかりの水着に身を包んでいたヒナタは、ポッと頬を桃色に染めた。 近くにいると、ついネジの視線を意識してしまう。 「や…ヤダ…。あんまり、見ないで…ね?」 ヒナタは、折角見えていた魅力的な身体の曲線を、羽織っていた上着の前を合わせて、モジモジと気恥ずかしそうに隠してしまう。 「姉上〜! 荷物を運ぼう!」 いつのまにか、ヒナタの隣まで駆け戻っていたハナビが、何故かツンツンと尖った声をかける。 「う…うん。じゃあ、一緒に持とうか?」 「姉上の荷物は、ハナビが運ぶよ! ネジになんか、持たせたら下着の一枚や二枚消えちゃうかもよ――」 「ハッ、ハナビ!」 真っ赤な顔になったヒナタが、うろたえた声で失礼な発言をしたハナビに叫ぶ。 「わ、私の分は自分で運びますから! ハナビも、キバ君に預けた自分の荷物を持ちなさい!」 ギクシャクと緊張した面持ちで、ネジから荷物を受け取ったヒナタは、少々ワガママが過ぎる妹を嗜めた。 「――う〜。はあい」 プウッと不満そうに頬を膨らませながら、ハナビは素直に返事をする。 「キバ。荷物!」 ハナビは、自分よりも頭二つ背の高いキバの顔を見上げて、ニュッと細い手を伸ばす。 「んじゃ、コレ持っていけよ…浮き輪とビーチパラソル」 キバは、重さはなくても、嵩の大きい荷物を小柄なハナビに押し付けた。 「…軽いじゃん」 ハナビは、器用にバランスを取りながら、膨らませ済みの浮き輪とビーチパラソルを担いだ。 「軽いけど、両手が塞がって邪魔なんだよ」 ようやく荷物を担ぎなおせたキバが、ハナビを見下ろして苦笑した。 「ハナビ様、荷物を一箇所に纏めますから、パラソルをお持ちなら、こちらへお願いします」 「はあ〜い」 ネジの声に返事をしながら、ハナビは、ベエッと小憎たらしく舌をだした。 「ハナビ。気持ちは分かるけど、皆で海にきたんだから、これくらいの事で、あんまピリピリするなよな」 ネジを毛嫌いするハナビに肩を竦めたキバは、自分の胸より下にある小さな頭に手を置いて、クシャリと乱暴にかき混ぜた。 「だあってー。さっきもネジのせいで姉上に怒られた…」 ハナビが険しい眼差しで睨みつける先には、ヒナタと寄り添うように波打ち際を歩くネジの姿があった。 「そりゃ、あんな風にネジをからかったら、ヒナタも怒るだろ。仲がいいのを見たくないんだったら、なんであの二人のデートにくっついてきたんだよ…」 キバは、大袈裟に眉を顰めて、ハナビを見下ろした。 ネジとヒナタのデートに、お邪魔虫な小姑ハナビと、そのお供にキバがくっついてきて、さぞやネジも腹ただしいだろうに。 「いいんじゃないの? ネジは、姉上がいればハナビの事なんて、気にも留めないもの」 一瞬、ハナビは子供に戻った顔で、拗ねたように俯いた。 「ハナビ様。それほど重いようでしたら、私が荷物を運びましょうか?」 返事の後、暫くしても歩いてこないハナビを気遣ってか、ネジが、怪訝そうに眉を曇らせて近づいてきた。 「いい! 持っていけるもん!」 途端にハナビは、プイッとネジの手を無視して元気に砂の上を走りだす。 「ったく、意地っ張りめ。悪いなネジ――」 キバは、少女の強がりを面白がるように眼を細めて、ネジに笑いかけた。 「ハナビ様は、いつもの事だ。ところでキバ。いい機会だから一言忠告しておく」 ネジは、急に改まった顔でキバに向き直ると、鋭い視線でキバを射貫いた。 「単刀直入に言う。アレでも、大切な従妹殿なんだ。不必要にハナビ様を泣かせるなよ?」 唐突に、ハナビの事でネジに釘を刺される。 キバは、しかめっ面でバリバリと頭をかいた。 「オイオイ…。そんなマジな顔で睨むなよな。ハナビが、ただ泣かされてるままに黙っている玉かよ…」 今更だが、ネジにそんな事を指摘されるとは思わず、キバはぼやいた。 「それでもだ! ハナビ様が笑っていないと、ヒナタ様が心配される。ヒナタ様を悲しませるような事をする相手に、俺も容赦はしない」 ネジは、厳しい眼差しで重ねてキバへ警告をした。 「ハイハイ…分かったよ。ったく、なんでネジにまで…」 キバは、呆れた顔で答えた。 実は先刻も、同じようにヒナタからもハナビの事で、真剣に念を押されていたのだ。 二人に言われなくても、ハナビを悲しませるような真似をするつもりはない。 まあ、多少は泣かせてしまう事もあるだろが…それは、また別の話しだ。 「キバー♪ 早くおいでよ!」 鮮やかな赤の水着姿になったハナビが、波打ち際で大きく手を振ってキバの名を呼んだ。 「ネジ兄さーん」 同じく、白のビキニの水着が眩いヒナタが、少し照れた瞳でネジを見つめ、小さく手を振った。 楽しげな姉妹の声が、それぞれの恋しい人の名を呼んで手招いている。 「オー今行く!」 キバは、ハナビを見る目を細め、軽く手をあげた。 「すぐ参ります…」 ネジもまた、落ち着いた声でヒナタを振り返り、口元を嬉しげに綻ばせた。 将来は義理の兄弟になるやもしれぬ男二人は、秘密の会話を打ち切り、愛しい少女たちに向かって熱い砂浜を並んで歩き始めた。 『夏の欠片』の後日談 |
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すいぞくかん 水乃えんり 筆 無断転載・複製・直リンク禁止 |