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日記より抜粋のコネタ




1




カタン … ガタッ …… ガタガタッ

薄暗い室内で、何かを探すような物音が響く。
そこは、古い年月を経過した倉であった。
換気などいつしたのか分からないほど埃っぽい空気が充満し、作りつけの棚には、呪文書やら呪具などが所狭しとしまい込まれていた。

ガサゴソ … ゴト … … 

「ケホッ……あった!」

暫くケホケホと咳き込んだ後、ほんの少し掠れた少女の声が、暗闇に響いた。
古い桐の小箱に収められた品物を、大事そうに抱えこみ、剥がれ掛けた説明書らしき紙に目を光らす。
艶やかな黒髪は、灰を被ったかのように煤け、丸みを帯びた薔薇色の頬さえも、消し炭のように黒く汚していた。
全身、蜘蛛の巣まみれになっていたが、少女は一向に意に介す様子もなく、文字を読むことに熱中している。

「うん。これだ!」

晴れやかな表情で、大きく頷いた少女…ハナビは、不敵な笑みを浮かべて小箱を見下ろすと、おもむろにその封印を切ったのだった。





その日、日向ネジは、朝から身の回りにうろつく妙な気配を察して、少々気分を害していた。

「……何か御用ですか? ハナビ様…」


とうとう痺れを切らしたネジは、背後の扉に頭を引っ込めようとしたハナビへ声をかけた。
何か用事があるのならば、堂々とネジの前に出てくればすむだろう。
にも関わらず、今日に限って、遠くからネジを観察するように、つかず離れずで纏わりつかれては、落ち着いて小用に行くこともままならない。

「隠れても無駄ですよ。…私に何か?」

ネジは、振り返った視線の先で、まだ隠れようとしているハナビを見つけて、呆れたように溜息を吐いた。

「なんだ…バレてたんだ?」

ハナビは、悪戯を見つかった子供が不貞腐れるように、ペロリと舌をだしてネジの前にしぶしぶ進み出た。

「ちょっと調べたい事があって……ネジ(呼び捨て)だったらいいかな〜と思って様子を見ていたんだ」

「調べたい事? わざわざ私などのところにこなくとも、ヒアシ様にお聞きすれば宜しいのでは?」

「いや…父上じゃダメなんだ。それに姉上でも……だから、ネジ! お前にちょっとお願いしたいのだが……」

そう云って、ハナビは、オズオズと右手を差し出した。
手のひらの上には、小さな箱にラッピングされたこげ茶色の物体が五つほど入っていた。
ネジは、怪訝そうに眉を顰めて考え込む。

「……なんですか? これは…」

一見して、お菓子のようにも見える。

「見ての通り、手作りチョコだ。ハナビが作ったんだぞ。しっかり味わって食べるがいい!」

ハナビは、今現在姉とは比べようもない薄い胸を張って、ネジの前で踏ん反り返っている。
否、ネジの為に(?)ハナビ自身が手づから作ったチョコレートを差し出している。


「なんでまた…」

普段、あれほどネジを犬猿しているハナビの豹変ぶりに、ネジは怪訝に思った。
(何かの罠か…?)

「ちなみに、バレンタインデーが近いからじゃないぞ! 義理チョコぐらいならやってもいいが、コレはあくまでも実験だ! あとで、姉上に食べて貰う前に、味見をして欲しいんだ」

ハナビのその説明で、ネジは、ようやく納得がいった。

「要するに、毒見しろ…という事ですね?」

例えるならば、たっぷりとココアを振りかけたチョコレートの外見。
しかしてその中身の味は、炭化したクッキーか何かだろうか?
あまりにも必死の形相で、チョコレートを持っているハナビに、変に警戒ししていたネジも、苦笑しながら頷いた。

「分かりました。今すぐですか? …では、ひとつ頂きます…」

ひとつ、小さめの黒い塊を手にとったネジは、覚悟を決めて口に放り込む。

「……」

「………」

「……どうだ?」

モグモグと無言で咀嚼するネジの口元をじ〜〜〜〜と凝視しながら、真剣な表情でハナビは、ネジの感想を聞いた。

「……。…まあ、それほど不味い…というほどではないですが、少々固いのでは?」

味に関しては、市販のチョコレートを溶かしただけのようだったので、素直な感想を答えた。

「しかし、なんですか…何か、チョコレートの他に入れたモノがありますか? どうも、口の中に渋みのような味が残るのですが……?」

ネジは、怪訝な面持ちで舌先に残る渋味の材料をハナビに確認した。

「ああ…まあ、ちょっと…な」

妙に落胆した様子のハナビが、気のない返事を寄越す。

「味はそれほど悪くなかったですよ。大丈夫ですよ、ハナビ様。次回は、加える材料を少しかえてみれば、この渋みも消えるでしょうし…」

手作りチョコに満点を貰えず、気落ちしたハナビを慰めるように、ネジは、言葉を続けた。
そして、その瞬間はやってきた。

「…? なんだ、これ…は?」

グラリと世界が歪む。
一瞬にして意識が切り離されるような感覚が、ネジの身体を襲った。
自分の足で立っているはずのに、地面を踏んでいるという感覚が全くしない。
そして、目の前の風景が、どんどん縮んでいく…否、むしろネジの視線が縮んでいっていた。

「ハナビ様…なにが…」

何が起きたんだ? そう問う言葉は、空に消えた。

「……ふっ。うふふふふ…成功したようね」

ネジの視線の先で、ハナビが、いままで見せたことのない満面の笑みを浮かべていた。

「は、ハナビ様?」

オカシイ…明らかに立ち位置がおかしかった。
ハナビの近くにいたネジが、先ほどまで見下ろしていたのは、従妹の後頭部の辺り。
それなのに、何故今は、ハナビの顔を下から見ているのだろう?

「ネジ…ずいぶん小さくなったわね…クス」

楽しそうに呟くハナビの台詞に、ネジは固まった。
(…ちいさい?)
ネジは、恐る恐る自分の手を見下ろす。

「……な、なんだコレは!?」

ありえない事態が、ネジの身におきていた。




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2005年01月28日(金)




すいぞくかん 水乃えんり 筆
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